【小噺4】
彼は、己の「存在意義」を気にする。
全てと関わることをやめたことから、よく考え込むようになった。
まるでそこに自分がいないのだと思わせるかのように、姿を探すように。
ぼくが得た記憶は、彼には継がれない。
元々、彼の精神を休ませることが目的で表にでてきたのだから、ぼくが目覚めている以上彼は眠った状態にある。
無論、ぼくは彼を失いたくはないし、壊したくもない。
肉体的に疲労が溜まっているのなら、一日休日として過ごす。
彼のために何かしてあげたいと思うのは、ぼくの中にある本心だ。
それだけに、ぼくは彼という存在が大好きだった。
ぼくらのあいだに、会話は成立しない。
どちらとも好きなように過ごし、その限られたサイクルによって反転が行われる。
ぼくが表に出るタイミングは、直感的に彼の精神に負荷がかかったと感じたとき。
その瞬間の記憶を引き継ぎ、ぼくは表へと踏み出す。この反転行為が、彼には疑問に感じたのだろう。
直前の記憶を継ぐのには、ぼくにとっては意味がある。
ぼくの直前の記憶を彼が継がないのにも、些細な意味はある。
けれど彼にとっては、ただの疑問でしかない。そこに導ける答えなど、彼は持たない。
彼が世界を否定するのは、ただそのことに意味を持たないからだろうか。
声も、腕も、何も届かない空虚の世界に、居続ける意味を見いだせないからだろうか。
彼のことで唯一理解できないのは、これだ。
彼はきっと、ぼくのことを都合のいい存在だと思っているのだろう。
タイミングを図ったかのようにあらわれ、切れた記憶の繋ぎ目には足りなくなった必需品が揃っている。
外に出る必要性を根本的に失ったという事実は、彼にはとても有難いことになるのだろう。
けれどぼくは、そんな彼の危うさも感じていた。
彼の言う「存在意義」の話ではなく、彼そのものの人格の問題だ。
ぼくは、彼ほど考えることはしない。考えたところで、何も見出せないことを知っているから、それは無意味に終わる。
自問自答を繰り返したところで、至る答えはひとつだけ。
それはすでに、「考える」という行為をした瞬間に決まっている答えだからだ。
それでも敢えて考えるのならば、ただ自身はそうでありたいと肯定したいだけなのだろう。それで存在を示したいだけ。
そんな彼に、ぼくはなにができるのだろうか。
なにを、彼に伝えることができるのだろうか。
ぼくらが「光」と「影」ならば、相応の何かが必ずあるはずだ。
そう思い悩むこと、数時間。
結局行き着いたのは、彼ができないことをしてやることだけだった。
彼に、会話も記憶も届かない。
それでも彼に伝えるには、言葉を記すしかない。
ゆえにぼくは、その日から反転のおわりに、彼宛ての手紙を残すことにした。
全てと関わることをやめたことから、よく考え込むようになった。
まるでそこに自分がいないのだと思わせるかのように、姿を探すように。
ぼくが得た記憶は、彼には継がれない。
元々、彼の精神を休ませることが目的で表にでてきたのだから、ぼくが目覚めている以上彼は眠った状態にある。
無論、ぼくは彼を失いたくはないし、壊したくもない。
肉体的に疲労が溜まっているのなら、一日休日として過ごす。
彼のために何かしてあげたいと思うのは、ぼくの中にある本心だ。
それだけに、ぼくは彼という存在が大好きだった。
ぼくらのあいだに、会話は成立しない。
どちらとも好きなように過ごし、その限られたサイクルによって反転が行われる。
ぼくが表に出るタイミングは、直感的に彼の精神に負荷がかかったと感じたとき。
その瞬間の記憶を引き継ぎ、ぼくは表へと踏み出す。この反転行為が、彼には疑問に感じたのだろう。
直前の記憶を継ぐのには、ぼくにとっては意味がある。
ぼくの直前の記憶を彼が継がないのにも、些細な意味はある。
けれど彼にとっては、ただの疑問でしかない。そこに導ける答えなど、彼は持たない。
彼が世界を否定するのは、ただそのことに意味を持たないからだろうか。
声も、腕も、何も届かない空虚の世界に、居続ける意味を見いだせないからだろうか。
彼のことで唯一理解できないのは、これだ。
彼はきっと、ぼくのことを都合のいい存在だと思っているのだろう。
タイミングを図ったかのようにあらわれ、切れた記憶の繋ぎ目には足りなくなった必需品が揃っている。
外に出る必要性を根本的に失ったという事実は、彼にはとても有難いことになるのだろう。
けれどぼくは、そんな彼の危うさも感じていた。
彼の言う「存在意義」の話ではなく、彼そのものの人格の問題だ。
ぼくは、彼ほど考えることはしない。考えたところで、何も見出せないことを知っているから、それは無意味に終わる。
自問自答を繰り返したところで、至る答えはひとつだけ。
それはすでに、「考える」という行為をした瞬間に決まっている答えだからだ。
それでも敢えて考えるのならば、ただ自身はそうでありたいと肯定したいだけなのだろう。それで存在を示したいだけ。
そんな彼に、ぼくはなにができるのだろうか。
なにを、彼に伝えることができるのだろうか。
ぼくらが「光」と「影」ならば、相応の何かが必ずあるはずだ。
そう思い悩むこと、数時間。
結局行き着いたのは、彼ができないことをしてやることだけだった。
彼に、会話も記憶も届かない。
それでも彼に伝えるには、言葉を記すしかない。
ゆえにぼくは、その日から反転のおわりに、彼宛ての手紙を残すことにした。