【小噺2】
まるで、無限の迷路のようだった。
反響する薄暗い通路を、ただ闇雲に走り続けていた。
夢のようで、やけにリアルな迷路だ。
数年、僕はどちらともつかぬ浮ついた世界を彷徨っていた。
記憶が混濁していて、それに慣れるのに果てしないほどの月日が経った。
そういうものだと認識したのは早かったのだが、それを受け入れるのに時間がかかっただけ。
受け止めてしまえば、あっさりとその生活にも慣れた。
世界を遮断した僕は、云わば「影」の存在。
そしてその記憶をなくしている間は、「光」である彼が表に出ているときのこと。
光と影は、それぞれに人格を持ち、互いの記憶は共有できないものである。
けれど結論的に違うのは、「影」である僕の記憶を「光」である彼は見ているという事実。無論、全てではないけれど。
「彼」は、「僕」の直前の記憶を受け継ぎ、唐突となく入れ替わる。
体そのものは僕であるため、そのすべての反動は僕にある。
ただ未だわからないのは、どういう経緯で「彼」があらわれたのかということだ。
第三者の話によれば、彼は普段僕がしていることの真逆のことを行っているらしい。
僕のことをよく知らない人からすれば、彼と僕が別物だとは気づかない。
なぜなら、彼の行動そのものがこの世界の理であるからだ。
よって僕は、彼の存在を嘗ての睡眠障害から生まれたもうひとつの人格なのだと結論づけた。
僕としても、彼の行動は有難い部分が多い。
どうあっても、人として空腹感だけはどうにもできない。
しかし外にでなければ食材すら手にはできない。
そうしたサイクルとともに、彼は表へと出てくる。ただの都合のいい存在でしかない。
けれどそれを認めることができないのは、僕にはそのあいだの記憶がないこと。
そしてそれはいつしか、「存在意義」という壁にぶち当たった。
世界は、廻る。
僕のことなどお構いなしに、廻り続ける。
いくら探しても、答えなどない。
叫び散らしても、手を伸ばし続けても、誰に届くこともない。
それが、代わり映えのない世界だ。
窓も、光も、何もない通路に、佇む。
肩で息をするその僅かな音でさえ反響するこの迷路は、後にも先にも果てしなく続いているらしい。
ならばその先に、僕が求める答えがあるのだろうか。
その先に、自分の姿がどんな形で映るのか。
途方もない考えに、かぶりを振る。
存在を否定して、生き様を否定して、世界そのものを否定して。
何もなくなった僕に残ったのは、そんなくだらない考えだけだ。
ぐるぐると悩み、もがき、足掻き、結果導き出したのは答えのない答えだけ。
それでも考えてしまうのは、人という性だからだろうか。
それとも、それしかすることがないから無意識的にしてしまうことなのか。
そこまで考えて、ぷつり、と意識が途絶えた。
反響する薄暗い通路を、ただ闇雲に走り続けていた。
夢のようで、やけにリアルな迷路だ。
数年、僕はどちらともつかぬ浮ついた世界を彷徨っていた。
記憶が混濁していて、それに慣れるのに果てしないほどの月日が経った。
そういうものだと認識したのは早かったのだが、それを受け入れるのに時間がかかっただけ。
受け止めてしまえば、あっさりとその生活にも慣れた。
世界を遮断した僕は、云わば「影」の存在。
そしてその記憶をなくしている間は、「光」である彼が表に出ているときのこと。
光と影は、それぞれに人格を持ち、互いの記憶は共有できないものである。
けれど結論的に違うのは、「影」である僕の記憶を「光」である彼は見ているという事実。無論、全てではないけれど。
「彼」は、「僕」の直前の記憶を受け継ぎ、唐突となく入れ替わる。
体そのものは僕であるため、そのすべての反動は僕にある。
ただ未だわからないのは、どういう経緯で「彼」があらわれたのかということだ。
第三者の話によれば、彼は普段僕がしていることの真逆のことを行っているらしい。
僕のことをよく知らない人からすれば、彼と僕が別物だとは気づかない。
なぜなら、彼の行動そのものがこの世界の理であるからだ。
よって僕は、彼の存在を嘗ての睡眠障害から生まれたもうひとつの人格なのだと結論づけた。
僕としても、彼の行動は有難い部分が多い。
どうあっても、人として空腹感だけはどうにもできない。
しかし外にでなければ食材すら手にはできない。
そうしたサイクルとともに、彼は表へと出てくる。ただの都合のいい存在でしかない。
けれどそれを認めることができないのは、僕にはそのあいだの記憶がないこと。
そしてそれはいつしか、「存在意義」という壁にぶち当たった。
世界は、廻る。
僕のことなどお構いなしに、廻り続ける。
いくら探しても、答えなどない。
叫び散らしても、手を伸ばし続けても、誰に届くこともない。
それが、代わり映えのない世界だ。
窓も、光も、何もない通路に、佇む。
肩で息をするその僅かな音でさえ反響するこの迷路は、後にも先にも果てしなく続いているらしい。
ならばその先に、僕が求める答えがあるのだろうか。
その先に、自分の姿がどんな形で映るのか。
途方もない考えに、かぶりを振る。
存在を否定して、生き様を否定して、世界そのものを否定して。
何もなくなった僕に残ったのは、そんなくだらない考えだけだ。
ぐるぐると悩み、もがき、足掻き、結果導き出したのは答えのない答えだけ。
それでも考えてしまうのは、人という性だからだろうか。
それとも、それしかすることがないから無意識的にしてしまうことなのか。
そこまで考えて、ぷつり、と意識が途絶えた。